◆141107 読書日々 697
内村瑠美子さんがとうとう評論集『デュラスを読み直す』を出しました。おめでとう!
1 ようやくヒルティの『幸福』を使った「幸福になるには」、幸福術(art)を書き上げました。書き下ろしは楽しいが、苦しい。ヒルティは「不眠症」を治すには、眠らずに楽しむ方法を考えるほど、徹底した生き方術(ハウ・ツウ・ライブ)者でした。
わたしは49歳の時、「大学教授になる方法」を書きました。その後、「続」を、「新」(アメリカ取材を経験しました)を、「社会人から」等々を書きました。わたしは「職業」としての「学問」論を書いたのですが、「眉唾物」、あるいは「ギャグ」とみなされたり、「……なる方法」と称されたりしました。売れたので「バブル」哲学者になったともいわれました。もちろん、わたしはこれらの揶揄や嘲笑を、非難とばかりはうけとっていません。まさにわたしが第一に考えたのは、「なる方法」(ハウ・ツウ」だったからです。そうそうイタリアで会った大学教授に、ワシダはどんな本を書いているのか、と聞かれたので、how to become a professor、と答えて、大声で笑われました。世話になった廣松渉先生に、鷲田君の主張はその通りだが、大学に職をえたい人、苦労してえた人がたくさんいるのだから、軽々しくいうのはどうか、というおしかりをはがきで受けました。これもずばりですね。廣松さんもわたしも、研究職をえる苦労は、身にしみているはずです。でも、変な苦労などしない方がいいにきまっています。
2 そんなわたしの本を92年に読んで、実践し、大学教授になったのが松岡宏明さんです。中学教師から大学院をへて、島根県立女子短期大学を振り出しに中京女子大、そして郷里に近い関西国際大学へと転じてきました。毎年報告が来ます。うれしいですね。まるで自分が「幸運」に出会ったような気がしてきました。ちょうどヒルティの、幸福になる方法を書き上げたとき、松岡さんからずっしりした報告が届きました。
3 昨日、11/6、三重短期大学(法経科)で同僚だった、そしてわたしの酒飲みの「先生」でもあった内村瑠美子さんから『デュラスを読み直す』(青弓社 20141031)が届きました。青弓社の矢野さんは、わたしが一方的に送った『大学教授になる方法』の原稿を読んでくれ、すぐに出そう、といってくれた編集者(社長)です。初刷5000部というので、その多さにびっくりしましたね。
内村さんは文章まで美しい人でした。それをこの本でまざまざと再見するのは、痛みに似た快を呼び起こします。たくさん読まれなくてもいい本は、いい本です。ただしフランス映画の好きな人は、買って読んでほしいな。そうそう、内村さんが連れて歩いてくれた新宿ゴールデン街の、大野さん(銀河系)や河合さん(ジュテ)の映画マニアが集まる店が、目の前に迫っても来ます。
3 今年はずいぶん仕事をしたという感じがします。書き下ろしを大小3冊、その他いろいろと注文があり、思いっきりクリスティの映像作品を集めて、観ました。小説も単長編をかなり読んだものの、積み残している感があります。まだ50日以上残っているのに、ここまででもう、へとへとになった感じです。でもスピードが遅くなった、スタミナがなくなったからだ、というのが、たくさんした、ヘビィだ、と感じざるをえない理由なんですね。(あ、今日の日記は、です・ます調になっています。書き下ろしの気分のままなのでしょう。)
4 クリスティ『パーカー・パイン氏の事件簿』の後半は、パインが、長期休暇を取って地中海沿岸からエジプトまで足を伸ばす旅行中の事件簿だ。パインが降り立った場所のほとんどは、曽野綾子とゆく巡礼の旅で訪れたところで、もちろんクリスティも足跡を残した地だろう。ダマスカス、ペトラ、ルクソール等、土地の臨場感がぱっと伝わってくる。パイン氏の事件簿は、『黄色いアイリス』にもう2編含まれているそうだから、読まなくては。