藤原不比等と紫式部(言視社)

あとがき

 1 藤原不比等は、長いあいだ特段に気になっていた人物であった。私なりに、とつおいつ追い続けていたが、本書執筆の最初の契機となったのは、やはり馳星周さんの時代小説『比ぶ者なき』(中央公論新社 2016)であった。この小説には、人をそそる、そうそう、司馬遼太郎さんとはまた違った意味での、「人誑〔ひとたらし〕し」の魅力がある。

 くわえて、2024年度NHKの大河ドラマが『光る君へ』に決まり、その時代考証を倉本一宏氏が務めるというのだ。氏には『持統天皇と皇位継承』(吉川弘文堂 2009)という問題作がある。1960年代、わたしたちが親しんできた直木孝次郎氏や上田正昭氏たちのとは、かなり違ったというか、くっきりした論が展開されている、と思える。

 ただし、不比等と天皇制の問題には、光明子→皇太后の存在意味を明らかにしなければならない、という「失われたリンク」問題がある、というのが私の主張である。いわゆる「四文字元号」の歴史意味だ。

 2 源氏物語を中軸とする王朝文学の問題は、少し理屈か勝ちすぎている、と思われるに違いない。それでも、最澄と空海問題に、それに大伴家持と紀貫之に特段の光を当ててみた。

 それでも、「哲学」出の私のことだ。それに谷沢永一の薫陶を受けた。折口信夫と小西甚一の「学徒」に過ぎない。……ということで勘弁願いたい。

 それにしても、大石静の『光る君へ』は、面白く、切ない。文芸の極につながる。そう思える。

 2024年7月7日 盛夏            鷲田小彌太