読書日々 847

◆170915 読書日々 847
北海タイムスは近くて遠かった
 毎週のように「涼しい」、と書いてきた。残暑もない。そしてすでに9月も中旬だ。じつに過ごしやすい。北海道に戻って25年目、初めての経験というか、北海道の夏で初めての体験だ。それほどに夏らしくない夏だった。というか、ほとんど家の外に出なかったせいでもある。
 1 そんな中、家内がひとりでせっせと引っ越し用品を整理し、運んでいる。わたしといえば、引っ越しにかけては、前科2犯、伊賀から札幌、札幌から馬追では、本を段ボールに収めるだけ。今回は、それもしていない。ただ裁断機で手紙はがき類を処理しているていどの能なし振りだ。まずい。というか、この夏、なぜか、「注文」が出・入り、逃亡「罪」を免れうるようなアリバイが出来たこともある。それに引っ越し距離が40キロ程度ある。自動車免許を返上したことも、アリバイの1つに加わる。自分自身が自分の手足で移動不可能な「荷物」に変じてしまったのだ。2重にまずい。ま、最大の原因は「老化」だろうが。
 それでも引っ越しを老妻が自力でほぼ半ば以上を完了済みだ。頭が下がる。わたしとその本類がなかったら、とっくの昔に済ましていただろう。
 2 増田俊也(1964~)『北海タイムス物語』(新潮社 2017.4.20)を読んだ。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社 2011)がベストセラーになった作家だ。自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店 2013)で知られるように、北大柔道部出身で、北海タイムスに入社し、中日新聞に転じて、クマ物語や格闘技等の漫画原作でデビューした異色の作家だ。上記3作は大長編、タイムス物語は、1990年4月から5ヶ月間、古参の新聞社を舞台にした最新作で、作者もモデルの1人として登場する。文句なく面白い。
 わずか1ヶ月で、社会部記者志望の新人「ダメ」社員が、整理部のエースにしてタイムス社のエースから、新聞のイロハから1本立ちするまでのノウハウを伝授される、熱闘巨編だ。仕事とは何か、に真っ正面から答える異色の小説でもある。
 名門・旭日丘高(名古屋)出身、2浪して北大に入り、柔道と熊の生態研究に熱中。七帝戦後、中退して、北海タイムスに「先行」入社。異色のタレントだ。
 90年当時、タイムス社長(塩口喜乙)と飲み屋(きらく)が一緒だった。朝日の政治記者で、「朝日ジャーナル」の編集長を歴任したという、単身赴任の人で、「倒産」寸前の「名門」新聞社を小さな双肩で支える経営者、というふうには見えない、シャイで気取ったジャーナリスト然としていた。
 作品には「金不二」というタイムス社裏手(?)の日本一安い居酒屋も登場する。タイムス社の近くに、わたしがボランティアで編集人を務めていた、月刊『北方文芸』の事務所があり、その行き来には、狸小路の「延長」街にある、焼け跡然とした金富士(いまも健在)あたりでよく酒盛りをした。このころ、のち新潮社の校閲部にいった広瀬誠、ミステリー作家になった東直己、その他その他の作家志望等と安酒を飲んだのか、和田由美の亜璃西社等、別なグループと飲んだのか、もはや定かではない。ただし、増田の小説でも登場するように、一人でゆっくり飲む所ではなかった。
 3 鮎川哲也は、エラリ・クインと同じように、アンソロジストでもある。鉄道ミステリーのアンソロジ『下り「はつかり」』、『急行出雲』、『見えない機関車』(未読)に続く4編目『無人踏切』は、西村京太郎や赤川次郎の「名作」と無名の江島伸吾や秦(しん)和之等の鮮作を配した巨編だ。対して、鮎川「無人踏切」は凡作に近い。ただし収録13作に対する鮎川の「解説」が秀抜だ。人見知りで、若者に厳しい(東大生にまともなミステリーなんて、お遊びじゃないんだ、などという風に、語った自分を評する)鮎川の自己批判(?)もよく出ている。