読書日々 803

◆161111 読書日々 803
「アメリカ人」の「勝利」
 1 アメリカ大統領選で、トランプが圧勝(?)した。カリフォルニアやニューヨークという2大票田だけで、94人獲得を約束されていたクリントンを大差で破ったのだから、何で、信じられない、ということになる。もっともクリントン夫人は、その夫とともに、最も嫌みな候補者であった。
 いちばん驚き、戦いたのは、アメリカ民主党であり、日本自民党ではないだろうか? 自民党は圧倒的な力を誇っているように見えるが、二度ほど政権から落ちたことがある。明日は我が身なのだ。民進党がただただ愚かなだけのことに過ぎない。共和党は、トランプの風に乗って、本来の支持基盤ワスプ(White Anglo‐Saxon Protestant)を固め、上下院で勝った(ように思える)。「アメリカ人の勝利」という理由だ。マスコミ人気では最低とブーイングの嵐に晒されたトランプが風を招き、その追い風に乗ったのだから、皮肉だが、現実だ。
 来年は、ドイツでもフランスでもトップの選挙がある。これで米英についで独仏という欧米4大国のトップが変わる可能性が現実的になった。先進国で日本の安倍政権だけが、安泰のように見えるが、はたしてそうだろうか。独裁のロシアやチャイナと同じように、総裁任期を延長するなどは、民主制(多数決)の悪用以外の何物でもない。これじゃ「憲法改正」でも勝手放題なんじゃ、と疑念を持たれても、仕方がないじゃないか。
 大統領(候補)としてトランプが、自国(アメリカ)中心であるのは当然だ。日本の天皇や首相が日本中心であるのが、自然(当然)であるのと同じだ。自国中心主義と自国中心とは、その境界線が難しい。自国中心を相互に認め合うことでしか、その境界線を引くことはできない。引き方には、歴史と現実の双方から接近するほかない。朝鮮戦争の時、アメリカが要求した再軍備をやんわりと断り、日本政府がすすめた「軽武装」(吉田ドクトリン)は、日本の「都合」だった。結果、戦後復興が早まり、高度成長経済が実現した。だが、他国の軍事力におんぶにだっこ(従属)という状態は、独立国家の実質を損なう。トランプの米軍駐留費の引き上げ要求は、アメリカの「都合」だけでなく、当然である。基地はいらない、ヤンキー・ゴウホームというのは、いまさらジローである。ま、わたしはトランプの要求が、二枚舌ではなく、レーガンやサッチャーと同じように、かなり「率直」だと思える。二枚、三枚舌を使い続けてきて、恥じなかったのは、クリントンやオバマであった。
 2 長谷川伸『ある市井の徒』、自伝大作を読んでいる。長谷川(1884~1963)は、先頃文化勲章を貰った平岩弓枝の師匠だ。池波正太郎の妹弟子だが、直木賞も平岩が先に貰った。伸が主宰する新鷹会の出世頭で、その長編連載『御宿かわせみ』はわたしの愛読書の一つだったが、明治維新以降はやはり、読み続けることは出来なかった。伸に『瞼の母』がある。片岡千恵蔵、中村錦之助の当たり役だった。しかし原作は、映画や芝居の錦之助のように、くさくはなかった。長谷川伸は、母と生き別れて47年後、その母とあうことができた。実母が伸の作品を読んだのがきっかけだった(ようだ)。そのは母、内村鑑三の弟子で、一高教授だった三谷隆正(1889~1944)の実母になっていた。三谷は、全集(5巻)があるほどのキリスト者・法学者だが、東大学長になり「全面講和」を主張し、吉田茂によって「曲学阿世の徒」となじられた南原繁とは違って、東大教授就任さえ断るほどの堅信家であった。伸については、『理想の逝き方』(PHP文庫 2012)で触れたことがある。長く編集部で奮闘してきた阿達さんとの最後の仕事になった、思い出深い本だ。なお新鷹会の面々は、村上元三、山手樹一郎、山岡荘八、戸川幸夫、平岩弓枝、池波正太郎、西村京太郎、戸部三十郎、邱永漢と、邱さんを除いて知らず知らず愛読者になっていた。伸の自伝、横浜新開地の心象風景がとてもいい。