◆170113 読書日々 812
EUの激震 ヨーロッパ連合25年の経験
1 1991年のことだから、25年以上も前のことになる。ソ連社会主義が崩壊し、東西ドイツが誕生、同時にEC統合が新しい段階を迎え、93年EU連合・単一市場が発足した。さらに10年、02年に、貨幣統一(ユーロ)とEU(連合)が12カ国で発足した。ちょうど90年代末から曽野綾子とゆく聖地巡礼(第15回)に参加し、中東イスラエルから主として地中海沿岸諸国を毎年のように訪れていたときに当たっていた。オリンピックを迎えたギリシア(アテネ)や、スペイン、ポルトガルが、EUに加盟し、「バブル」で沸き返っていた空気を肌で感じることが出来た。逆に、日本は、バブル(株と土地の高騰)がはじけ、デフレ・不況基調の大波のまっただ中にあった。(私事では、幸運(?)なことに、出版バブルは続いていたが。)
ジャーナリストのダニエル・バーンシュタイン(1953~ 『YEN! 円がドルを支配する日』草思社 1989)が、『ユーロクエイク』(「EUの激震」 三田出版会 1991)を出して、「ヨーロッパの激震が世界を変える!」と予言した。EU(欧州連合)の誕生で、ヨーロッパ(合衆国、特にドイツ)モデル、アメリカ(合衆国)モデル、日本モデルが、新世界を牽引するというのである。(この本には、市場経済を受け入れたチャイナの経済的躍進は描かれていなかった。わたしの予測も同じだった。わたしと異なるのは、EUは主権国家連合で、その壁は乗り越え不能、という点だった。)
2 このときから25年、EU連合はどうなったのか? 28カ国全体(人口5億)のGDPは、14年米国を抜き、世界第一位になった。しかし、アイルランドに始まり、ギリシア、ポルトガル、スペイン、イタリア等が国家財政の破綻を強いられ、膨大な負債を抱え、失業率は2桁の高止まりをきたした。ついにイギリスが「離脱」を国民投票で決めた。EUはドイツの一人勝ちで、英国の離脱でユーロ体制が連鎖瓦解(ユーロクエイク)がはじまった、と分析する本が現れた。とても示唆に富む書で、ジョセフ・スティグリッツ(1943~)『ユーロから始まる世界経済の大崩壊』(THE EURO 2016 東洋経済新報社 2016.9.30)である。著者はノーベル経済学賞受賞者と書かれているが、もちろんノーベル賞に「経済学賞」はない。
スティグリッツが、EU崩壊の元凶とみなすのが、ユーロ(統一貨幣)の存在だ。政治統合なしに貨幣統合をおこなった結果、景気調整(特に輸出入の調整)役を担う為替変動が不可能になり、借金・債務国が経済自主権を失う。同時に、IMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)、EC(欧州委員会)が、各国の経済自主権をコントロールする、超民主的(選挙のない独裁)機構=トロイカ(わずか1%の予算しかもたない)になった。しかもこのトロイカは、アメリカ合衆国のように、連邦政府が20%の予算を持ち、各州(States)の格差調整を行うことを不可能にしている。
3 だが、政治統合なしに経済統合を行うのは、誤りなのか? 政治統合の下に経済統合を果たすべきなのか? 欧州連合国(EU)とアメリカ連合国(USA)とは、異なる。前者は主権国家群なのだ。政治統合は、国家(国民)の壁をなくすことに帰着する。
筆者は、アメリカとカナダの二国間自由貿易協定を可とする。だが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をはじめとする多国間の貿易協定を、強国・富者が弱国・貧者を抑圧・支配する機構、グローバリズムであり、有害無益だと否定する。しかし言うまでもないが、グローバリズムは、インター・ナショナリズム(国家間主義)の進化形態ではあっても、国家を無化する世界統一・統合体(ソ連はこれを志向した)ではない。国家主権を前提とした上での経済統合・競合=自由市場協定の拡大である。
4 EUが、統一貨幣を設定したことと、経済主権を制限し政治主権を抑制することとは、同じではない。トロイカ(中央金融システム)支配を制限するルールが確立しなければ、EUは瓦解する。こう言わなければならない。
本書が統一通貨(ユーロ)の設定を批判・分析する論点に学ぶところは大きい。同時に、USAのような連邦をヨーロッパに課すのなら、国家主権の否定に帰結し、EU連合は即座に崩壊する。これは、EU連合発足時からわかり切っていたことだ。EUの根本矛盾だ。
5 新自由主義=グローバリズム=市場原理主義と規定し、ケインズ流の国家・政治規制を対置する筆者のイデオロギーこそ、批判の対象になる。