◆190913 読書日々 951
山根一真『「メタルカラー」の時代』
朝、鉢植えの小茄子が、気になる。観賞用としても、漬けるのはわたしじゃないが、漬物用としてだ。枯れそうで枯れない。どうにか水と栄養分を絶やさないできた。この夏中、一週に一、二個の割で、小さな実をもたらしてくれた。今朝も涼しい。
1 ミステリーは好きだ。司馬さんの魅力の一つは、大衆的なミステリー仕立ての作風にある。ま、歴史は無数のミステリー(自然と人為、必然と偶然)からなっているのだから、当たり前といえばそれに違いない。自然も人為も、偶然かつ必然だ、などという説明=筋(説明にならない説明)が成り立つ。それで時に「ダークサイドミステリー」のようなものも観てしまう。昨日は、ニホンオオカミであった。面白い。
1905年、ニホンオオカミは絶滅した、といわれてきた。ところがそのニホンオオカミ、その形姿も、基本標本も、はっきりしない、ということだ。(この番組、山根一真さんが登場した。まさにびっくりだった。この人わたしより若いが、90年代、わたしがパソコンを使い出すとき、その著作にたくさん教えられた。アマゾン研究家でもあった。)
これは番組内容にはなかったが、船山馨『お登勢』(1969)は、幕末、徳島支藩(淡路国)が本藩(阿波)から独立を果たすため、勤王の旗を立てるが、勤王佐幕の陰謀に巻き込まれ、阿波が勤王に転じたため、維新後、冷や飯をくらい、日高の開拓に回され奔命する物語だ。そこで馬を飼育する。ところがオオカミ群に襲われ、惨憺たる目に遭う。このお登勢たちとオオカミ群の攻防描写は、すさまじい。だが彼らエゾオオカミは、ニホンオオカミとは別(亜)種で、大陸オオカミの亜種だ。
50年「発見」されないと、「絶滅」に分類される。ところでニホンオオカミの基本標本は、どこにあるか? 日本にはない。オランダのライデンにある。すぐにシーボルトが持ち帰ったものだ、とわかる。シーボルトについては『日本人の哲学 4』(7 自然の哲学)や『福沢諭吉の事件簿 Ⅱ』でふれた。この人、多種多芸の野望家で、「日本学〔ジャパノロジー〕」を欧州に紹介した才人、動植物だけでなく、国際政治経済の現場にも登場する、多才というか陰謀家というか、実に面白い人だ。
このシーボルトが江戸でニホンオオカミを購入・飼育し、それ(の皮)をライデンに送った。それをもとにした「標本」である。一見すると、日本オオカミ(?)らしくない(標本作成者の個性が出る)。ところがこのほどその「骨」のDNAから、間違いなく「ニホンオオカミ」であることが判明する。歴史が動き出す。
問題は、「絶滅」したとされてから100年余、たった。じゃあ、ニホンオオカミは現存しないのか。「(再)発見」されていないとはちがう。(再)発見されて「いない」ものは、その現存否を証明できない。よく「アリバイ(不在証明)」がない、と追求されるが、刑事事件ではアリバイの存否を「証明」するのは、検察(刑事)であって、被疑者ではない。存在しないものの存否は証明不能だ。(浮気していないものが、浮気していないことを厳密には証明できない。)
ライデン標本の骨で、タイリクオオカミの亜種、ニホンオオカミが存在したことが証明された。DNA検査によってだ。さて、今後、同じDNAを持つオオカミが「発見」可能か? 次のステージがはじまった。
2 それにしても、シーボルトは面白いというか、うさんくさい人間だ。この人、医師であり、日本(近代)自然誌学の創始者であり、政商かつ、国際的な陰謀家(政策マン)であり、日本から追放されたが、「開国」(開港)で再来日し、その息子たちともども、日本の外交にさまざまな影響を与え続けてきた。(榎本武揚も、オランダ留学中、「接触」したはずだが?)
3 「技術」(4)
〈4 作る人と享受する人が、同じなら「芸術」(たとえば、連歌、俳諧連歌)であり、違うなら「工芸」(たとえば、陶芸、刀剣)である。〉
これを「日本文芸史」の領域で、雅と俗の変位を基軸に見事に展開したのが、小西甚一『日本文藝史』(全5 講談社)で、奇蹟のような達成だ。しかも、だれでもが読める日本表現史だ。
〈たとえば小説だ。作家(創作)と読者(読者)が同じ(同人誌)なら、純文学(芸術)であり、異なれば大衆文学(芸能)である。〉 山本周五郎は、純文学を素人の文学と称し、芥川賞を受けなかった。
5 〈芸術は長く人生は短い。〉( ars longa vita brevis.)はヒポクラテス(医術の始祖)の言葉だ。しかし、まったく真意は伝わらない訳で、「技術は長く、人生は短い。」で、意味するところは、「技術を習得するには時間がかかる。だが人生は短い。だから、技術習得に励みなさい。」ということだで、ごくごく当たり前の技術=人生論だ。ちなみに「技術の進歩」は、ラテン語でartium progressus、技術はskill/craft/art; trick, wile; science, knowledge; method, way; characterである。
4 なお「技術」の重要性を研究・執筆の中心においた梅棹忠夫の功績については、これはもう言及しなくてもいいだろう。若い人は、その『知的生産の技術』だけでなく、全著作集から学ぶといい。最後に、遺憾ながら、谷沢先生は、「技術」の鍛錬を重要視しながら、「技術」という言葉を嫌った。残念至極である。