読書日々 972

◆200207 読書日々 972
中村嘉人さんが逝った
 1 中村嘉人(1929~)さんが亡くなった。この3日のことで、数えで92歳の大往生だった。
 通夜は近親者でしめやかにとりおこなわれた。わたしは義母の葬式以来の「式」への参列で、喪服がなじまぬまま、式場に行き、通夜の席に列し、ころあいをみはからって切り上げ、車に乗るのをやめ、雪がしんしんと降るなかを電車に揺られて帰ってきた。駅からは雪道の中である。

 中村さんは、長谷川慶太郎(工学部)さんと同期で、経済学部を出た阪大の大先輩だ。奥さんは法学部でを出た才媛で、嘉人さんと大学は同期、わたしが「北方文芸」の編集をしていたことが機縁で、お二人との付き合いがはじまった。
 結果として、わたしは一回り年上の嘉人さんを文芸作家の世界に引き込んだ一人になったが、もともとは経済界の人であった。とはいえ、学生時代から作家になることを念じていたということだった。
 わたしは、生意気が服を着て歩くという体の「暴言」を吐くことしばしばだったが、嘉人さんにはさすがに憚られた。先生筋にあたる谷沢先生と同じ年生まれであったことも重なったように思える。
 昨年春まだ浅きとき、ふらりと事務所を訪ねたときが、最後の出会いとなった。
 中村さんの作品を列挙しよう。

 1『古い日々』(未来社 1994) 2『ロマノフ家のオルゴール』(未来社  1994) 3『時代小説百番勝負』(共著 筑摩新書 1996) 4『池波正太郎。男の世界』(PHP研究所 1997) 5『定年後とこれからの時代』(長谷川慶太郎共著 青春出版社 1999) 6『経営は人づくりにあり 日立ソフト・成功の秘密』(PHP研究所 2002) 7『大衆の心に生きた昭和の画家たち』(PHP新書 2007) 8『クラシックホテルの物語』( エムジー・コーポレーション 2008) 9『人生、70歳からが愉しい』(亜璃西社 2010) 10『函館人』(言視舎 2013) 11『いまからでも遅くはない』(言視社  2014) 12『シニアライフの本音』(言視社 2017)等々。

 60歳を過ぎての出発だったから、けっして少なくない。
 中村さんは、自分が書きたいものをじっくり腰を落ちくけて書いた。書き続けた。なかなか真似のできるものではない。だが生来「書く」のが好きだった。
 好きだったからといって書けるものではない。それも1ダースに余るほどに書いたのだ。まだ書きたいこと、すでに書いたものが残っているかも知れないが、わたしごとでいえば、いい人生を、それも後半生を送ったのでは、と思える。書いたご褒美ではなかったか!?
 中村さんは、函館生まれで、著作名もあるとおり、最後まで函館「人」であった。高校(旧制)は弘前、大学は大阪、奥さんとも大阪で出会い、東京くらしをへて、札幌にでんと腰を落ち着けた。実業では歴とした成功者であった。(飲み屋仲間からは「中村会長」といわれるのをつねにしていた。)
 奥さんの中村久子(筆名沓沢久里)さんも長く「文学」に深く関わり、「鶴の泪」で第1回朝日新聞北海道支社「女性の文学」賞(1980年度)を取り、近年、『通天閣の消えた町』(亜璃西社 2017)でビッグな第51回北海道新聞文学賞をえている。
 夫婦付随というか、婦夫共同というか、文学においてもともによき理解者であった(と思える)。それが嘉人さんの書く力の源でもあった。