読書日々 1620 「知価革命」だって?! 堺屋なら許せる 

◆読書日々 231124 1620 「知価革命」だって?! 堺屋なら許せる
 2月おきに通院、診察を受け、薬を貰っている。今日は寒くなるというので、寒防よろしく出発したが、さほどのこともなかった。朝早くから通院客が多かった。わたしの方は、予想通りの普通の血圧だったが、この暑い夏はよくよく呑んだ。わたしの長い人生でも、家(個室)でこれほど呑んだことはなかったのではないだろうか。しかも、どんな酒でも美味い。自分では一生分(「背負い水」)すでに呑んだと思えるが、もう少し呑めそうだ。ただし、酒「毒」の故か、記憶力は「減退」ではなく、「消滅」したようにさえ思える。
 1 それでも、新刊、『人物図鑑 古今東西、今関西』(言視舎)の2校をどうやらすますことができた。中外新聞や経済誌で長期連載した古今東西の人物論をまとめたものだ。
 わたしの読書「興味」の一つに「人物論」がある。自身でも、思うに任せて人物論を書いてきた。谷沢永一先生の影響も受けたが、もともとは開高健の衝撃の方が強かった。北海道の各種人物に関するエッセイも、数え切れないほど書いてきたように思える。自身では、散逸するのは惜しいとは思っているが、ま、デジタルでは遺してある。近辺の人たちが過半を占める。といっても、そのほとんどはすでに亡くなっている。
 2 「失念」や「茫々」を、わたし自身は恐れたことはない。しかし、昨日触ったものが、いまそこにない、という経験を今日もやってしまう。でも、少し時間が経てば、あったはずの所に、やはりめざしたものがあり、だから「慌てない」というより、「慌てることが普通なのだ」でいいではないか、ということに落ち着いてゆく。
 それで、最近、メモを取ることにしている。だが予想したとおり、メモのほとんどは、メモした理由が半ば……、??、になる。メモがその役割を果たしていないのだ。マズイが、必然(自然)か。
 3 「知価革命」だって?! 堺屋なら許せる
 大阪にひさしぶりに「大物」が誕生した。経済企画庁長官の堺屋太一(1935‐ 2019)である。
 大物というのは、泰然自若としている。物怖じしない。小さなことに神経を使わない。クールである。しかし、そういう人はどこか他人を遠ざけるところがある。ところが、あの風采である。嫌味ではない。エリートではあっても、「超」ではなく、身をもって仕事ができる。泰然ではあるが、拙速をきらわない。それに、上からどやすような説教癖が少しもない。大物ブリは、したがって、付け焼き刃ではなく、生来のものと思われる。
 それもそのはず、「堺屋」はペンネームだが、もともとは屋号で、ご先祖は堺で貿易商を営んでいた。秀吉が大阪城を築いて町づくりを始めるたとき、堺から呼び出され、後に両替商を営む。その十四代目が堺屋さんで、本名は池口小太郎。
 その大物ブリの最たるものを先日かいま見ることができた。TVの公開討論番組である。堺屋さん、「チカかくめい」を連発した。よって、進行役の竹中(慶大教授)さんと対論者のクー(野村総研主任研究員)さんもなんどか「チカ」といわざるをえない。参加者と視聴者の多くは、なんのこっちゃと思っただろう。
 堺屋さんの処女作は、通産官僚時代の『油断!』で、『団塊の世代』とともに見事なキャッチ・コピーとなって定着した。エネルギー問題と「世代」問題を一語で表出する凄腕だ。しかし、「ジダイ思考」や「日本カクシツ」はいただけないし、「チカ革命」はもう一つ。「満足化社会」は明らかにパクリだろう。「次代」「革質」「知価」はどうみても「時代」「確執」「地価」だろう。
 しかし、この大物の人は、「知価革命」、「知価時代」をすでに万人承知のビッグネームとして使って、照れも動じもしないのである。それも大臣の肩書きでである。もちろんこれは堺屋長官を貶めていうのではない。
 いいときに小渕内閣も人をえたものだ。堺屋さん、役人時代、大阪万博などのビッグイベントをことごとく成功に導き、退官後は、小説や評論でつぎつぎとヒットを飛ばし、しかも時代の急激な変化にも対応してきて、少しも使い減りしていないからだ。なによりもいいのは、この人が相当過激なことを言っても、そうとは映らないことだ。反発よりも、「ああ、そうか」と思わせしめる度合いがうんと大きいのである。
 「夜明け前の直前が一番暗い」、「明るい兆しが胎動している」、事実はこういう他ない苦しさから出てくる言葉なのに、一生懸命なのだな、という妙な信頼感が伝わってくるように感じられるから、不思議だ。
 政治だって、経済だって、言葉が肝腎で、関西は、元来が言葉の社会である。関西の地盤沈下は、その言葉の力の減退にあるのではないか、と私はつねづね思ってきた。谷崎潤一郎は、関東大震災後、関西に居を移すが、谷崎文学が花開くのと関西言葉とは無関係ではなかったのだ。