読書日々 701

◆141205 読書日々 701
「兵は詭道なり」(孫氏)は世の中の、人生の正道だ
1 この読書日記が15年目に入る。それ以前、月刊『読書北海道』WEB版で1年「読書日記」をやっているから、16年目に入ることになる。長いといえば長い。休まずに(忘れて遅れたことはあったが)やってきた。長めの海外旅行のときになどには、あらかじめ「連載」を組んでいった。だんだん書くのに時間がかかるようになった。拙速を尊ぶ気風が欠けてきた。
2 衆院選挙である。「自民300超えか!」という朝日や道新の予測があったが、眉唾じゃないだろうな。何度もなんども書いてきたが、消費資本主義である。生きてゆくのに特段必要でないもの(選択消費財)を消費している社会だ。必需消費費用が、選択消費費用を遙かに下回っている。教育費が足りない、老齢年金がカットされたなどと自身の「貧困」を嘆いているが、餓死するほどの人はいない。「限界集落」に生きて30年になるが、、生きている。ときにススキノだって自力で行く。国民ひとりひとりがちょっと消費(支出)をたとえば5%抑えれば、国内総生産(国民所得GDP)が3%以上ダウンする。そういう社会に生きているのだ。
3 朝日と毎日共同主催の将棋名人は、羽生(4冠)である。読売主催の竜王は森内だった。朝日・毎日と読売のマスコミ対立は、政治やスポーツの世界だけではない。もっとも朝日・毎日コンビのほうが権力欲が強いが。
 この2タイトルが将棋の最高峰で、羽生・森内世代がタイトルホルダーだった。新団塊(団塊世代の子どもたち)の世代である。野球のイチロー、競馬の武もこの世代だ。
 ところがようやくというべきか、いよいよということだろうが、27期の竜王戦で、12/4に森内を4勝1敗で破った糸谷哲郎(26)がこの最高位を奪取した。ま、野球や競馬とは違うが、王将・棋王の2冠渡辺明(30)とともに、本当の意味の新日本=世界人の登場のはじまりである。スポーツでは羽生や萩野というもっと若い世代が世界のトップに立っている。時代は20年たって、確実に転回しているのだ。
 面白いことに、糸谷は広島出身で、大阪大学哲学科の大学院生で、ハイデガーを研究しているという異色の棋士である。竜王挑戦者決定戦で、羽生を破って森内を撃破した運の持ち主でもある。私にも大学愛というべきものがある。出身の阪大、勤務先の三重短大、札幌大である。糸谷、わたしの好きな羽生に負けるな。
4 『日本人の哲学』第5巻をさきに仕上げることにした。9「大学の哲学」では廣松渉、田中美知太郎、三木清、西田幾多郎を頂点において、大学の哲学をスケッチしようというものだ。もちろん近代以前にも「大学」はあった。すでに1や3/4/5でスケッチしてきたが、遺漏はあった。それも書きたい。10「雑知の哲学」では、「雑知」の鶴見俊輔、「教養」の柄谷行人、「知恵」の山本夏彦、「歴史」の井上光貞をキーパーソンとして配しようと思っている。でも、廣松をはじめ、このトップは大量に書いている。なかでも田中がすごい。ま、田中論を書けないことはないでしょう。保守派といわれている人たちが、田中をよくよく引用している。この人、敗戦直後、「民科」(民主主義科学者協会)に所属していたことはよく知られているが、語られないな。でも大著『プラトン』(全4巻)が田中のアルファでありオメガだ。
5 仕事で『孫子』を再読した。兵法書である。「だまし」はよくない。競争は「必要悪」だ。戦争は最悪=犯罪だ。という戦後日本人の常識と正反対の位置に立つ必勝法の本だ。2500年ほど前に書かれたというから驚きである。
 伊丹敬之(1945~)『孫子に経営を読む』(日本経済新聞社 14.7.16)は、孫氏の兵法を経営書として蘇らせようとする。ただ孫氏は、儒学の影響をまったく受けていない。武蔵の五輪書とならぶ、戦いに勝つための書として経営=ビジネスに役立つハウツウ本なのだ。
(1)「兵は国の大事なり」、(2)「兵は詭道にあり」をストレートに説く。ところが著者は、(1)「兵は国の大事」だが(2)「戦いは正をもって合い、奇をもって勝つ」=まず正攻法、それに奇を組み合わせて勝つ、という。「兵=戦い」、競争は、詭道である。政治もビジネスもだましあいだ。これが大道=正道だ。このことを前提にしないかぎり、世の中は平らかにならない。