読書日々 988

◆200529 読書日々 988 初夏の香りがしてきた
 1  歩いて3分ほどのところに信濃神社がある。隣はわたしも通った信濃小学校だ。朝、8:30分、始業の鐘が鳴ってから家を飛び出していっても、授業に間に合う距離だった。万事にのんびりしていた時代である。その神社の境内の立木が高さも太さも葉のつけ具合も見事なだけでなく、葉の緑が目にさやかで美しい。わたしの定番の散歩コースである。
 といっても寒い時期は部屋にこもっていることがほとん。昨日はひさしぶりに、境内から出て、暖かい風が吹くなかを、ズック靴に身を任せ、JR駅の跨線橋(屋根つき)を北へ超えて西町へ渡り、札幌方面(西)に鉄路に沿う舗道を少しすすんで、交通量の多い車中心の跨線橋を南に渡り、ぐるっと一周してきた。といっても2300歩にしかすぎないが。
 そうそう、蒸気機関車の頃は、ぽーっという発車の汽笛が鳴ってから、家を飛び出し、裸のホームに駆け上がり、列車に乗り(飛び)込むことができた。通学(高校)のためで、朝6時台のことだった。同じ列車には、後に代議士(民社党→民主党)になり大臣(公安委員長)になった同期の小平忠正が乗っていた(筈だ)。
 2 ウィルス害で唯一といっていいプラスの楽しみが、再放送番組を見ることができることだ。その最たるものが、「dele ディーリー〔削除〕」の最終回である。山田孝之(1983~)という、地がハリウッド俳優のようにに美しく、髭ボウのとき汚らしい男(の言動)が気になっていた。deleの主演した車椅子の山田孝之で、菅田将暉と麻生久美子(「時効警察」)がレギュラーだ。
 山田の「電車男」は未見で、TVで「十三人の刺客」(2010 池上金男=池宮彰一郎脚本=原作 主演は役所広司)を見て、強く印象に残った。
 このドラマは東映の工藤栄一監督の代表作(1963 「大殺陣」64)で、で片岡千恵蔵・里見浩太朗主演で撮られ、仲代達矢・田中健のコンビでリメイクされた。ま、2010作は工藤流とは違うが、残虐非道の限りを尽くす赤穂藩主で将軍の弟(次期老中)役の稲垣吾郎が「快演」(?)した。その影に回ったものの、山田の名が強く記憶に残った。
 それでこの際再見しようと、DVD版をアマゾンで注文(中古品・非レンタル落ち)、入手した。安くない。ところがである。音が悪い(低くかつ聞き取りにくい。勝新監督の刑事物ほどではないが)。画面が暗い。過半がモノクロ調だ。TVで初見したときの印象とまったく違う。TV版はカッとされ(ていただろう)、こちらは本編141分なのだから、「本物」なのだろうが、映像美が全く感じられない。全編にわたって、暗いというより色(に深み)がない。これじゃあ、映像とはいえない。出演者は好演しているが、生き生きと活写されていない。黄昏のなかで飛び回っているかにみえる。がっくりだ。おそらくDVD版がひどいのだろう。ま、役所は好かないし、これを忘れて、deleの山田の好演で我慢するか。
 3 これも再放送なのだが、BS12「篝警部補」(2)で、「かがり」警部補と小田茜部長刑事のコンビドラマだ。その作中、東大文学部卒の篝が新人女刑事(警察が「男社会」であるというぼやき)にむかって、P・D(フィリス・ドロシイ)・ジェイムズ『女に向かない職業』の書名をあげる。
 ただし、この長篇の主人公・女のJobは新米の「私立探偵」で、刑事ではない。理知派の女性で、その「特技」は、ゼロックスのコピイ機よろしく、瞬時に「情報」を刷り込み、記憶するというものだ。小田刑事も理知派だが、特技はむしろ粘りだ。「名だけ」の引用では、むしろ面白みが半減する恐れがある。それに篝警部補も、「理知」派とはいいがたい。
 4 トイレ本、関川夏央『寝台急行「昭和」行』(NHK出版 2009)を存分に楽しみ、読了。
 ひさしぶりに、行きつ戻りつ、味わって読んだ。汽車・電車があり、それらに乗った作家たちの作品があり、「時刻表」があり、作者関川の気車=歴史旅がある。
 最後が「漱石の汽車、直哉の電車」である。直哉が父と決裂、尾道に行った(1912/11)。その直哉好きの小津安二郎が、1953年、「東京物語」を撮る。直哉の事蹟を慕って、老夫婦の居住地を尾道に設定した。中澤千磨夫『小津の汽車が走るとき』(言視舎 2019)は、直哉好き・気車好きの小津の一点に注視するだけでも面白い。
 知らないうちに小津の汽車に同乗している自分(鷲田)を発見する。最近も上田をあっというまに通過した。もう10年前になるか、「早春」で主人公(池部良)が山のなかに単身赴任した。その「三石」駅を、岡山行の鈍行で通り過ぎ、「あっあっ」と声に出してしまった。……中澤さんの本、関川にも読ませたいな。