読書日々 656

◆140124 読書日々 656
過ぎたるはなお及ばざるがごとし Too much is as bad as too little.
 激安版「ハンフリー・ボガード」を手に入れた。10本で1886円だから、激安の名に恥じない。わたしのようにテレビに釘付けの人間にとって至福のプレゼントだ(big talk)。
 ご存じの「三つ数えろ」も入っている。チャンドラーの名作の一つ「大いなる眠り」(The Big Sleep)の映画化だ。ボガードは背が低い。というか高くない。やはりこの版にも入っている「カサブランカ」では相手がイングリット・バーグマン(インゲルト・ベルイヒマン)だ。釣り合いがまるでとれない。この映画でも相手のローレン・バコールもボガードより高い。映画では冒頭、依頼主の妹娘に「背が低いのね」といわせている。原作では「背が高いのね」だが、映画のほうがビターはきいている。
 錦之助や橋蔵、雷蔵も背が低かった。だがボガードは華やかでも美貌でも偉丈夫でもない。わたしが見た映画のかぎりでは、かぎりなく中年であり、くすんでいてそのうえ悪顔である。ハリウッド映画で必ずベストテンに入る「カサブランカ」でも、世界大戦の異常時、反戦というより厭戦気分のドイツナチの占領下にある「異郷」という情況を取り去れば、平凡な恋愛劇に見えるのではないだろうか。
 もちろんボガードを貶めてこれをいうのではない。戦友が殺された事件を追う「大いなる別れ」は、原作なし(?)の映画で、明らかにチャンドラーの「大いなる眠り」と「長い別れ」(The Long Goodbye)を足して2で割った題名で、おまけに相手役の稀代(?)の悪女の名がコーラル・チャンドラーときている。台詞もこりにこっている(ようだ)。チャンドラーよりチャンドラー風なのだ。
 中村嘉人さんの『函館人』(言視舎 2013)に、1833年高田屋が闕所になったときの資産額が載っている。
 唐船積出米高 19万8千石
 有米高    396万石 *1両で0.8石の米相場に換算すると316万両余
 有金高    3121万8千両
 船数     500石以上450艘
 召使人    船手他982人
 居宅     表口450間裏行390間
 店数     3箇所 江戸、大坂、蝦夷
 出典は、財産没収になった二代目金兵衛が預かりとなった阿波徳島藩の記録(覚え書き)で、高田嘉七「高田屋嘉兵衛と近代経営」(函館学講義資料 2009)にある。検索するとデジタル版が手に入る。本文がA4で4枚ほどのパンフだが、貴重な資料だ。
 江戸前期の三井の創業者三井高利の遺産が銀4800貫余で、およそ75000両である。高利没と高田屋闕所とのあいだには150年ほどの開きがあり、小判の価値は大きく異なるから単純に比較できない。それにしても3500万両なのだ。高田屋の貨殖ぶりは想像を絶する。高田屋嘉兵衛に少し遅れて登場し、北前交易で莫大な財をなした「海の百万石」といわれ、やはり闕所となったた銭屋五兵衛も巨財を築いた。しかし高田屋の足下にも及ばないだろう。
 この貨殖の源泉は何か。会計説明がつかない「場所請」(蝦夷地経営)と密貿易と高利貸を含めないと、説明が付かない。淀屋は高田屋より100年前に闕所になった。没収金が230万両もすごいが大名貸1億貫が残された。明らかに借金棒引きのため潰されたといっていい。もちろん、高田屋は幕閣、銭屋は加賀藩執政の後ろ盾を失ったから闕所にあったし、淀屋を含め、結局は、儲けすぎたから潰されたということだろう。えっ、儲けすぎはいけないかって。その通りである。これ、江戸期にかぎらない。