読書日々 829

◆170512 読書日々 829
原丈人は、ちょっと凄いぞ!
 昨11日に続いて、早朝から雨と靄で、視界不良。ひさしぶりに長女家族が来訪。一週間ほど滞在する。上の娘は5歳になった。アンパンマンを卒業したらしい。下の子は5カ月。ゆったりしている。わたしの家は女系というか、女が長生きで、わたしの孫が女男比、3対1だ。涼しい北海道にいるだけで、満喫というわけにはいかないだろうが、二人とも育児休暇を取っている。
 1 北海道(人)は、本州他を「内地」と呼んできた。北海道だけかと思ったが、かつては、朝鮮(半島)、満洲、沖縄、台湾、千島・カラフト人も、「内地」と呼んだ。つまり、北海道他は「属州」だったのだ。内地に対するあこがれと違和感が入り交じった言葉だ。鮎川哲也の満洲を舞台にした探偵小説を読んでいると、「外地」を実感できる。ただし、今週は、鮎川本は、短編集どまりで、ちょっとお休みもよう。
 2 今週は、書評のために読んだ、ロバート・ライシュ(1946~)『SAVING CAPITALISM 最後の資本主義』(〔2015〕東洋経済新報社 2016.12.15)と原丈人(じょうじ 1952~)『「公益」資本主義』(文藝新書 2017.3.20)に手こずった。
 前者は、アメリカ経済の金看板、「自由市場」は神話であり、したがって「グローバリズム」と「能力主義」(努力は報われる)は、「中間層」の消滅を招き、一方に0.1%の政治・経済権力を握る富裕層と、他方にワーキング・プアの大群衆を生み出し、この格差は日増しに拡大している。この二極分解は、アメリカ資本主義崩壊の最終段階であり、この崩壊からアメリカを救わ(セイビングし)なければならない。ライシュはこういうのだ。
 ライシュは反資本主義者でも、共産主義者でもない。だがマルクスやレーニンが予言したように、金融資本主義(ウォールストリート)の独占支配が、階級分解・対立を先鋭化させ、大量の貧困を生み、資本主義を崩壊に導く、というような状態が、まさにアメリカで起こっているというのだ。
 本書が、キャッチコピーにあるように、泡沫候補であったトランプが共和党の指名候補になり、2016年、圧倒的に優勢だと思われていた民主党のクリントン(ヒラリー)を破った「深層」(=真相)を語った、というのももっともな感がする。とはいえ、本書も、ピケティ『21世紀の資本(論)』(2013)と同様に、自由市場経済(原理)の信奉者であることは疑いない。つまり「格差」解消・廃絶論者ではなく、格差是正論者なのだ。
 3 原丈人は、英米型資本主義の現状には出口(saviing)がない、日本型資本主義=「『公益』資本主義」こそ、現代資本主義の救いなのだ、と主張する。ライシュより簡明で理解しやすい。その骨子は、「株主」資本主義ではなく、会社は「公器」=公益を基本としなければならない、だ。公益は従業員、購買者、コミュニティ、社会全体等の利益を同時に図ることだ。そのためには、株主の権利行使は5年以上の株保有者にかぎる、超高速取引(HFT)は規制(取引課税)する、4半期決済を廃止する等が必須だ、と断じる。とてもいい。
 4 しかし、ライシュも原も、資本主義、グローバリズムを一面的に理解している、としかいいようがない。グローバリズムは、現在の流れ、しかも不可逆的な流れだ。反グローバリズムで進むことは「鎖国」政策をとるということで、こんなことは誰も(北朝鮮でさえ)主張できない。問題の中心は、アメリカファースト(本位)とグローバリズム(地球本位)をどう協調(対立の中の統一)してゆくかだ。日本本位は、グローバリズムの中で、どう実現できるかだ。
 わたしには、日本型資本主義を「公益」資本主義だなどと名づけると、気恥ずかしいことかぎりない。資本主義の原理は私益本位だ。その私益の幅が広い。問題は、どう公益・他益と調和・調整できるかにある。基本的人権(の不可侵)とは、私的所有権が、私益(個人の生命と財産の不可侵)追求権がその中核にないと、存立不能になる。ソ連や中共に人権がなかった理由だ。資本主義では、政府も軍も大学も、公益を追求するが、その目的は、私的所有権の確保にある。ま、エゴイズムの確立だ。この点を抑えない、公益、公器論者は、いかがわしい。