ビブリア古書店から雨の降る品川駅まで

2013.1.25

 14日(月)に録画していたフジTV新番組「ビブリア古書店の事件帖」を観た。作者の三上延(1971~)はまったく未読だが、「ビブリア」は空港の書店に並んでいたのをかすかに憶えていた。マンガかなと思えたので手に取らなかった。ドラマはおもしろいというか、「本」が主人公のミステリーである。あんまりよくできているので、アマゾンで1~3をまとめて注文したら、2日後に雪の中の馬追に着いた。すぐに1「それから」編を読んだが、TVのほうがほどよく整理され、よいできばいに思えた。22日「東京新聞」の『日本人の哲学1 哲学者列伝』の著者インタビュー(土曜インタビュー)の仕事があって上京したので、3冊を鞄に入れて千歳を出た。品川のホテルに着くまで1を、23日2、3を読んだ。いわゆる文学「体」ではなく、情語を削った文体で情感を謳いあげるという体の小説で、ぞんぶんに泣かせる。TVドラマとも人物配置がかなり違う。ま、ドラマは俳優が演じるのだから仕方がない。小説は「本」が主人公というところが最大の見所だ。もっともTVでは古書店の量感がじつにいい。小説では古書店主の妹が重要な役を演じるが、TVでは弟になっている。どうなるのかな。このシリーズ小説、TVとも爆発的に売れると確約できる。すでに売れているか。「相棒」もひどくマンネリ化してきたしね。ひさしぶりに小説を読んだ気分になった。作者は40歳を過ぎたばかりで、若い人の小説だが、わたしのような老人殺しもやってのける。わたしの息子や娘世代の特長だろう。

 24日、時間が少しあったので、京急で気になっていた「青物横丁」で降りて、その商店街をキャリーを引きずりながらかなり歩いてみた。旧「品川」宿のあった近辺で、岩倉具視の墓所「海晏寺」(かいあんじ)や時代小説に出てくり海雲寺に入ったりして時間をつぶした。青物横丁という名である。なにか特別のものがあるのかと思ったが、普通の商店街であった。昼時になったので「京屋」というそば屋に入ってひょいとみると「鰊そば」という字が飛び込んできた。期待しなかったが、これがビールにあって、まさに「京」の鰊そばだった。そうそう、森信成先生と食べた西芳寺の鰊そばをすぐに思い出した。ぽかぽか陽気の日だ。ローカルに乗り込んだらうつらうつらして、蒲田を乗り越してしまっていた。時間がもう少しあるからとそのまま、横浜を乗り越し、浦賀まで行く気でいたが、さすがに金沢文庫までで1時間半かかった。快特、特急、急行に次々追い抜かれる。戻りは急行で羽田まで直通に乗った。

 帰りに読む本がなく、羽田の山下書店で浅川芳裕『日本は世界第5位の農業大国  大嘘だらけの食糧自給率』(講談社α親書 2010)を購入、機上で半分ほど読んだ。この本があるとは知らなかった。著者は1974年生まれ、シャープである。いずれ紹介したい。

 22日、新橋でPHPの阿達さん、フリーのライターの荒井さんという旧知の編集者二人と「路地裏金魚」で飲んだ。ここは酒もいいのがあるが料理が安い、大量に出るし、旨い。ただし酒を飲み出すと料理のほうはあまり食わなくなる。これが最近の癖だ。一通り食べて飲んだので、銀座の「Books」へゆき、帰りは阿達さんに送ってもらった。歯を磨いて、娘に電話したが、翌朝まったく憶えていなかった。品川に泊まるのは久しぶりであった。見知りの店はほとんどなくなって、再開発の激しさに驚くばかりである。いまや新幹線が止まるようになった品川は、羽田の玄関口としても機能し、池袋、新宿、渋谷、新橋、東京とはまたひと味ちがうモダーンなターミナルになりつつある。

 その品川で23日インタビューを受けた。記事はかなり大きなスペースをとって3月に載るそうだ。6時過ぎ、事を終えて、品川港南口に向かう。よく聞くとかつて東京新聞は港南口にあったそうで、中野重治の詩で有名な「雨の降る品川驛」の舞台になったとろである。ビル街に変貌した一角にわずかに残る迷路のなかにたつ「鳥徳」で一献傾けようとしたら、記者の大日向さんは下戸だという。長女の夫、貴雄君を呼んで、三人でしばし歓談。そのご、父親を失いだが娘をえた、正月に来れなかった貴雄君と二人で品川をひさしぶりに食べ飲んだ。

 帰宅したら中沢千磨夫さんからはがきが来ていた。いつものように旅の途上からで、21日、神宮前にいるとある。12月の時も東京ですれ違った。

* ちなみに中野の詩を掲げておこう。

雨の降る品川駅

御大典記念に 李北満・金浩永におくる

辛よ さようなら
金よ さようなら

君らは雨の降る品川駅から乗車する

李よ さようなら
も一人の李よ さようなら
君らは君らの父母の国に帰る

君らの国の河は寒い冬に凍る
君らの反逆する心は別れの一瞬に凍る

海は雨に濡れて夕暮れのなかに海鳴りの声を高める
鳩は雨に濡れて煙のなかを車庫の屋根から舞い下りる

君らは雨に濡れて君らを追う日本の天皇を思い出す
君らは雨に濡れて 彼の髪の毛 彼の狭い額 彼の眼鏡 彼の髭 彼の醜い猫背を思い出す

降りしぶく雨のなかに緑のシグナルは上がる
降りしぶく雨のなかに君らの黒い瞳は燃える

雨は敷石に注ぎ暗い海面に落ちかかる
雨は君らの熱した若い頬の上に消える

君らの黒い影は改札口をよぎる
君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがえる

シグナルは色をかえる
君らは乗り込む

君らは出発する
君らは去る

おゝ
朝鮮の男であり女である君ら
底の底までふてぶてしい仲間
日本プロレタリアートの前だて後ろだて
行ってあの堅い 厚い なめらかな氷をたたき割れ
長く堰かれて居た水をしてほとばしらしめよ
そして再び
海峡を躍りこえて舞い戻れ
神戸 名古屋を経て 東京に入り込み
彼の身辺に近づき
彼の面前にあらわれ
彼を捕え
彼の顎を突き上げて保ち
彼の胸元に刃物を突き刺し
返り血を浴びて
温もりある復讐の歓喜のなかに泣き笑え