読書日々 870

◆180223 読書日々 870
「時の勢いは理屈ではない。それを理屈で解いて見せようとする時代はまだまだ人間、花じゃ」(小笠原長行)
 2月の終わりだ。空の白むのが早くなった。やはり気分がいい。オリンピックのTV観戦で、痛くなったというかしょぼついている目を押して、楽しんでいる。それにしても平昌は、好天気が続いている。何よりのことだ。
 1 北海道文学館が、「没後50年 子母澤寛 無頼三代 蝦夷の夢」展を4月から開く、ついては、子母澤「文学」について、谷口専務理事から、なんでもいいから書け、という下命をうけた。明治維新150年=箱館戦争150年だ。第1に思い出すのは、1968年、明治維新100年=建国記念制定反対の運動をしたときだ。大学闘争の煙が燃えだしていた。大学院の修士論文を仕上げ、大学院連絡協議会の議長(持ち回り制)になったときで、わたしの研究者生活が一変しだしたときだ。第2は、生涯の伴侶(と思える人)に出会ったことだ。ま、当時はさほど深刻に考えてはいなかったが。
 ところで、子母澤の代表作といえば、『新撰組始末記』『突っかけ侍』『勝海舟』というのがわたしの評価だ。近藤勇、小笠原壱岐守長行〔ながみち〕、勝海舟が主人公である。ところが、子母澤文学から生れた司馬遼太郎文学が、主人公を、老中小笠原をスルーして、土方歳三(『燃えよ剣』)、村田蔵六(『花神』)、坂本龍馬(『竜馬がゆく』)に変えた。無理なことを承知でいえば、残念でならない。蔵六(大村益次郎)もいいが、小笠原は、じつに司馬向きの人材ではないだろうか?
 小笠原の数奇(すうき)というか「数奇(すき)」な運命については、子母澤が各所で詳しく書いている。この人、唐津藩主の長子として生れたが、すぐに廃嫡となる。父が夭折したからだ。長いあいだ部屋住みとして暮らす。ところが41歳、突然、幕府要職の奏者衆に任ぜられ、およそ2カ月で、老中格・外国御用掛になる。そして老中時代、この人、つねに主戦論者だ。ただし老中をいったり来たりする。生麦事件では英に賠償金を払い、総スカンクを食らって、罷免、第二次長州征伐で老中に返り咲き、幕府軍の総代表だった。ところが、小倉城が陥落となって、真っ先に「戦線離脱」。罷免。さらに鳥羽伏見で敗れ、将軍慶喜が我先に江戸に逃げ帰った。幕府瓦解だ。ここで主戦論を張り、突如、姿をくらまし、函館戦争だ。しかしこの戦争でも、壱岐守は傍観者で、松前にいて、逃亡……。アメリカだのフランスだのに亡命した(という噂)。しかし、江戸に隠れ住んでいたのだ。あっと驚く○×ではないか。
 2 断片的に数作、再放送で見たことがあるが、鮎川哲也原作の「刑事・鬼貫八郎」シリーズが偶然はじまった。いまのところ18作品全部が放映されるかどうか、わからない。大地康雄主演の「鬼貫」は、たしかに鬼の面をしているが、家族持ちで、名前もあり、所轄の巡査部長だ。それに糖尿病(患者or予備軍)で、酒タバコ・食事制限をされている。ところが原作の鬼貫は、名前不詳、本庁の警部で、唯一の趣味がクラッシック(八郎も共有)音楽という、孤独癖を地でゆく静かな人だ。ただし、よく見ていると、このドラマ、アリバイ造り・破りは、原作をよく学んでいる。ここに焦点を当てると、じつに面白いミステリ作品なのだ。また鮎川原作のドラマに、松方弘樹主演の「チェックメイト78」がある(そうだ)。いわれてみると、わたしもなん作か観ている(とおもう)。あきらかに刑事コロンボの人気にあやかった「倒叙」もので、全22回放映された。こちらも、BSあたりで再放送されると、誠にありがたい。
 3 老後が長くなった。TV・メガネ・車、これで老後が楽々と乗り切れる。これらにPCを加えるともっといい。これがわたしの50代からの予測だった。ただし、車は75歳でやめた。理由はあるが、ま、いい。TV・読書の毎日で、目が退化する。それでも、かえって細かい字を読み、大きなスクーリンに目をこらす。
「刑事フォイル」が終わって、なんだか張り合いがなくなったと思ったら、「オックスフォードの事件簿」がはじまった。わたしは地方大学で、大学も教授も、エリート丸出し=「ごっつい」と思える物や人に出会わなかった。オックスフォード「中退」の巡査が主人公だ。面白い、というより、ちょっと恐ろしい若者に出会う感じが強い。